ロスト・オン・ユー

一次創作blog

家族になりたい26

・事件からかなり時間が経過して

・なんちゃっ亭の店内にて、伸びた髪を後ろに結いて元気に働く譲の姿があった

譲「炒飯粥一丁‼︎」

親父「あいよー‼︎」

・テキパキと要領よく注文をとり、料理を運ぶ譲

・相変わらず幼い顔立ちだが、以前より大人びた表情になっていた

譲「いらっしゃーい・・・あ」

・数名の男がのれんを分けて店に入ってきた

・それは麗、料理長、その他以前ホテルで働いていた従業員達だった

・麗は譲を見つけると軽く手を上げて会釈をした

・それに笑顔で返す譲

譲「(あれからどれくらい経ったっけ・・・)」

・体を動かしながら、思いを巡らせる譲

譲「(あの後すぐに、薫を含めてみんな警察に捕まってしまった)」

・手錠をかけられ、警察に連れて行かれる薫や従業員の姿が譲の脳裏にフラッシュバックしていた

譲「(不起訴になったり、懲役が短かったりで皆んなほとんど戻ってきた。でも薫だけはまだあそこにー・・・)」

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〜警察に捕まった時の回想〜

薫「ここまでか」

・手錠をかけられ、目を閉じてふっと笑う薫

薫「譲、俺のことは忘れていい。元気でいろ」

・薫はその辺にいる人間に言うように、そっけなく譲に言葉をかけた

譲「そんなっ・・・」

・現実を受け入れ、振り返る事なく警察と歩き始めた薫の背中が、益々譲を孤独にした

譲「(嫌だ・・・っ確かに薫は、社会では許されない事をしていたと思う。人も沢山ーー・・・だけど俺や、側で働いていた人達にとっては、本当にかけがえのない存在なんだ・・・!!優しくて、繊細で、愛情深い人間なんだよ・・・っ)」

・言葉にならない感情に打ち震える譲

譲「(せっかく心が通じ合えたと思ったのに・・・また失うのか・・・?)」

譲「(俺はまた・・・また1人に・・・?)」

・譲の目の前が真っ暗になっていく

・思考が停止して、辺りの風景も目に入ってこない

・項垂れる譲をなんちゃっ亭の親父がやるせない表情で支えていた

・ただ薫の歩く靴の音だけかが不気味なほどよく聞こえていた

・しかし譲の目の前に、薫がいつか家族の事を打ち明けた時の記憶が蘇ってきた

・見たこともないような壊れそうで切ない表情の薫の顔がそこにあった

譲「(・・そうだ。そう思うのは俺だけじゃない。きっと薫だって・・・!!)」

・譲は力を取り戻し、拳を握りしめると真っ直ぐに薫の背中を見据えた

譲「薫!!」

・そう呼びかけた譲の姿からは、これから何かを宣言するかのような勇ましさが漂っていた

譲「帰ってきたら・・・・・・結婚しよう!!」

警察「ぶっ」

・薫を連れていた警察が吹き出す

・その言葉を聞いて、足を止め目を見開く薫

譲「俺は最初から知らないし・・・薫は失ったかもしれない、でも、だからこそ家族が欲しい」

・その瞳には大きな涙が浮かんでいて、溢すのを堪えているようだ

・薫の大きな背中に届くように、必死に訴えかける譲

譲「・・・いや、薫とだけじゃない。今まで薫と一緒にやってきて、生き残っている人達、全員と」

譲「平和で暖かくて、心が通じ合った本当の家族になりたいんだ・・・!!」

・その言葉は、詰んだような表情をしていた薫と従業員達の目に光を与えた

警察「日本の法律がまだ追いついていないぞ・・・」

警察2「ここでそーゆーツッコミはしないのが情けだろ」

・動揺しながらヒソヒソと掛け合う警察達

譲「その為にっ・・・俺はいつまでも、待ってるから・・・っ!!」

・そう言った途端、譲の瞳から押さえていた涙がボロボロと溢れ出した

・薫はゆっくりと譲の方へ振り向いた

薫「ああ。約束する」

・希望に溢れ、輝く瞳で譲に笑いかける薫

薫「家族になろう」

・薫はそう力強く答えた

譲「うん!!待ってるよ・・・薫」

・薫の曇り無い瞳と返答に、譲の胸は一杯になって益々涙が溢れ出た

薫「なんちゃっ亭、俺の嫁をしっかり守れよ」

・薫は親父の方にむくと、譲を託した

親父「はいっ!!」

・そう言い残すと、譲に背を向けまた警察と一緒に歩き出した

譲「薫ーー・・・!!」

・去っていく薫の後ろ姿に、泣き崩れる譲

・それを支える親父

・歩調を変えず前へ進む薫の頬にもまた、涙が伝った

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・ラーメン屋にて

・テーブル席についた麗達と、譲は楽しそうに談笑した

・親父に呼ばれ、会釈をして仕事に戻る譲

譲「(いつまでも待つし・・・もう二度と自分を卑下したりしない。命を無碍にしたりもしない)」

譲「(みんながいるし、薫との約束があるからー・・・)」

・薫と外の世界で再会する事を夢見て、譲は胸を熱くした

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・刑務所の独房の中

・異様な雰囲気で鉛筆を座卓の上で原稿を書いている薫の姿

・すでにぎっしりと文字が書き込まれた大量の原稿が大量に積み上がっていた

薫「クックック」

看守「(何を企んでいるんだこいつは・・・)」

・その後ろ姿を部屋の外から不審そうに見ている看守

・机の上にはかつて譲と遊園地で撮った写真がフォトフレームに入れられ飾られていた

・机に大量に積み上がった原稿の一枚に、何故かウェディングドレスのデザインスケッチが紛れていたー・・・