ロスト・オン・ユー

一次創作blog

家族になりたい25

親父「!」

・親父が側で倒れている麗の顔を見て何かに気づく

麗「う・・・」

・麗は微かに息をしていた

親父「おーい!!!麗さん!!!しっかりしてくれ!!!おおおおおおおおおい!!!」

・麗の横に屈み込むと、親父は彼の耳元で大声で呼び始めた

麗「うう・・・う゛、る゛、さ゛、い゛・・・」

・体は動かないが、麗は眉を顰めてしっかりと反応した

薫「麗!!」

譲「麗さん・・・っ」

・麗が生きている事を知り、譲と薫の瞳が希望の光を放った

・しかしそれに気を取られて猪瀬がポケットの中のリモコンに手を伸ばした事に気づかない薫

猪瀬「・・壊してやる、ぶっ壊してやる・・・ぶつぶつ」

・ピッとボタンが押され、同時にものすごい破壊音が響き渡りホテル全体が揺れた

親父「うわあーっ!?」

譲「わわっ」

薫「しまった!!まだ仕込んであったのかっ!?」

・薫は慌てて倒れている猪瀬の方を向く

猪瀬「クックック」

薫「くそ」

・足でポケットに突っ込まれた猪瀬の手を蹴り上げる薫

・蹴られてポケットの中から猪瀬の手とリモコンが放り出される

・リモコンは宙を舞ってカラカラと地面に落ちた

猪瀬「あーーーーはっはっはっは」

・ゴロリと仰向けになって狂ったように笑い出す猪瀬

・ガラガラと音を立てて至る所の天井が落ち始めた

譲「崩れそうだ・・・!」

薫「外に出るぞ!譲、立てるか」

譲「う・・・ん」

・薫に肩を抱かれよろけながら立ち上がる譲

薫「親父!麗を頼むっ」

・自身もまた荒い息を吐きながら親父に指示する薫

親父「はいっ!麗さーーーん!!!今助けますからねーーー!!!聞こえてますかーーー!!!」

・麗を抱き抱えながらなおも耳元で叫ぶ親父

麗「聞、こ、え、る〜・・💢」

・だらんと力なく抱えられながら、鬱陶しそうに答える麗

・出口へ向かおうとする薫達。しかし譲が呼び止めた

譲「待って薫・・・!あいつも連れて行かないと」

・薫に肩を抱えられながら譲は寝そべる猪瀬に視線を送って言った

・一瞬猪瀬を振り返って見る薫

猪瀬「ひゃっはっはっはっは♬」

薫「無駄だ。奴はとっくに正気を失っている」

・すぐに正面に視線を戻し出口へ向かおうとする薫

譲「でも!」

猪瀬「そうだ・・・。俺はとっくにぶっ壊れてる・・・。お前を無くしてから」

・そう言いながら猪瀬がのそりと起き上がった

・ゾンビのような足取りで薫に近づいていく

薫「近寄るな!!」

・譲を庇いながら身構え、猪瀬に威嚇する薫

猪瀬「お前と一緒に天下を取る・・・それが俺の夢だった。でもその夢を見ていたのは俺だけだったんだな」

・猪瀬の意識ははっきりとしていて、口調も驚くほどまともで静かだった

猪瀬「シャブをやれば夢はリアルになったが、実際にお前が戻ってくることはなかった」

・猪瀬の瞳に狂気は無く、ただもの悲しい表情で薫の顔を真っ直ぐと見据えていた

薫「・・・・・・」

・猪瀬のその姿に、薫の表情にも微かに悲しさが浮かんだ

・手負いのまま近づいてくる猪瀬に、薫は動くことが出来ずに向かい合った

猪瀬「お前の求めるものを本当はわかっていたが、俺がそれを与えてやれない事もわかっていた」

猪瀬「奪ったのは俺なんだからな」

・そう言うと猪瀬は薫に手を伸ばし後ろ髪を軽く掴むと、力無く引き寄せてキスをした

・為されるがままになる薫

・譲もそんな2人を見ていることしか出来なかった

猪瀬「でも薫・・・お前を本当に愛してた」

・唇を離し、掠れた声で言う猪瀬の表情は憑き物が落ちたように穏やかだった

・そんな猪瀬に激しく動揺して瞳を震わせる薫

薫「豊さ・・・」

・薫が言いかけて、ガラガラと音を立ててホテルは更に崩れ出した

・ハッとして、すぐに譲の肩を抱えると薫は猪瀬に背を向けて走り出した

譲「薫‼︎」

・薫の顔を覗き込んで名前を呼ぶ譲

薫「行くぞ」

・しかし薫に表情は無く、ただ出口の方角を真っ直ぐと見ているだけだった

親父「ぎゃー崩れるーーー!!」

・親父も麗を抱えながら一生懸命走った

・猪瀬は去っていく薫の背中を見ながら、その場にどさっと座り込んだ

猪瀬「さあて、夢の続きだ」

・そう言うとポケットから薬を取り出し、それを口に含みまたボリボリと食べ始めた

猪瀬「フシューーーッ」

・目を閉じ、薬を嚥下した後に大きく息を吐きながら上を向く猪瀬

・目を開いた猪瀬の瞳に、落ちてくるシャンデリアが映った
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ドォオオオオオン・・・

親父「あわわわわ」

薫「・・・・・・・」

・4人が外へ出たのと同じタイミングで、ホテルは完全に崩壊した

・薫は崩れたホテルを静かに見ていた

譲「う・・・っう・・・っ」

・譲は薫の胸の中で泣きじゃくった

薫「譲、もう泣くな。助かったんだ」

・譲の顔を優しく両手で包むとそう言い聞かせた

譲「だって・・・っ薫の大切なものが・・・っ‼︎猪瀬の事だって本当は好きだったんじゃ・・・」

・譲は薫が失ったものを思って胸を痛めた

薫「おかしな事を言うな。独立する時にアイツの事は頭から締め出している。それまでは・・・・・まあ、多少の情はあったかもしれんがな」

譲「・・・・・・」

・崩れたホテルを見ながら静かに答える薫。それは非常に遠い目をしていた

・しかし表情に迷いはなかった

薫「一度は失うのが怖くて手放した。だが、今ここで俺が生きていて、お前が腕の中にいる・・・それだけで十分だ」

・薫は譲の瞳を真っ直ぐと見るとそう言った

譲「薫・・・」

・譲もそんな彼の瞳を見つめ返した

従業員「紫川さん!譲さんっ、高越さんっ!」

料理長「紫川さん!!」

・客を逃した従業員達が戻ってきて4人を囲んだ

・崩れたホテルと譲達の姿を見てみんな涙を流している

・2人を追ってきた料理長もそこに姿があった

・朝日が登り、山の隙間から光が譲達を照らした

・救急隊やパトカーが複数台到着し、辺りにサイレンと怒声が鳴り響いた